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「ライフサイクルアセスメント(LCA)事業」

英国における水力発電設備のLCA評価

このプロジェクトは、SEEDs組合員が修士課程をリスボン工科大学にて修めた際に英国バンガー大学にて修士論文、学術論文投稿・掲載された。この研究では環境影響評価ツールライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)を採用し、英国北ウェールズに建設された流れ込み式マイクロ水力発電設備に伴う環境への影響を定量化した。

LCAステップ1: 目的および調査範囲の設定

この研究では設計と建設が異なるマイクロ水力発電施設の建設段階に関連する環境影響を定量化した。LCA は、ISO14040:2006 / ISO14044:2006に従って実施。この研究で選択した機能単位は、発電量1kWhである。輸送、加工、原材料の詳細を含む建設段階に関するデータの入手可能性を考慮し、cradle-to-gate*1のシステム境界を選択した。分析では、調査したマイクロ水力発電スキーム(発電出力70kW-100kW)の製品製造と建設・設置のみを対象とした。検討された主なプロセスの詳細を図1に示す。なお、マイクロ水力発電ライフサイクルの運用段階と廃棄段階に関する負荷は、定量化が困難であり、建設関連の影響(1%)に比べて無視できると考えられるため、本研究には含まれていない。

図1. LCA評価対象プロセスとシステム境界(評価範囲図)


*1. 原材料調達、生産、流通、販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルで構成されるライフサイクルステージのうち、原材料調達から生産までを指す。

LCAステップ2: ライフサイクルインベントリ(LCI)分析

マイクロ水力発電設置に関する一次データは、発電計画を含む一般的な製造システムのレイアウト図およびプロジェクトマネージャーから提供された設計プロセスで使用されたすべての材料を含む建設および製造工程(例:掘削工事、溶接、亜鉛メッキ鋼板など)部品の輸送とロジスティクスを基にライフサイクルインベントリを作成。二次データソースとしてオープンソースソフトウェアOpenLCAを介してアクセスされたEcoinventデータベースなども使用した。

LCAステップ3: ライフサイクル環境影響評価

MHP スキームの潜在的な環境影響を定量化するLCIA 影響カテゴリーCML-IAベースライン法を基に、地球温暖化係数(GWP)酸性化係数(AP)人体毒性係数(HTP)生物資源枯渇係数(ARDP)化石資源枯渇係数(FRDP)の5つの影響カテゴリーを選定。これらの影響カテゴリーは、生態系破壊、人の健康、資源不足という3つの広範な環境影響分野に対応する。

LCAステップ4: 解釈

コンクリート・骨材、金属、プラスチックの消費は、5つの影響カテゴリー評価にそれぞれ異なる影響を与えることがわかった。地球温暖化ポテンシャルに関しては、コンクリートと骨材の上流生産が25~44%、プラスチックの生産が27~49%寄与している。酸性化係数に関しては、金属とプラスチックの生産がそれぞれ29-67%と19-45%に寄与した。MHPプロジェクトで使用される金属の生産は、人体毒性ポテンシャルの86-98%、生物資源枯渇ポテンシャルの79-98%に寄与し、プラスチックの生産は化石資源枯渇ポテンシャルの56-77%に寄与した。ある低揚程計画では、建設に使用される大量の材料が原因で、地球温暖化、酸性化、化石資源枯渇の負荷が最も高く、別の計画では、電力を輸出するための3kmの送電網接続のアップグレードが原因で、高い人体毒性と生物資源枯渇の負荷を示した。その結果は、輸送や建設の貢献度の変化よりも、マイクロ水力発電プロジェクトで使用される資材の量に敏感であった。代替材料の使用により、地球温暖化係数を削減できる可能性がある。例えば、コンクリート建築の代わりに木造の発電所を使用すれば、地球温暖化係数を6~12%削減できる。また、発電容量が増加するにつれて、発電量1kWhあたりの負担が減少するという一般的な傾向も示された。更に水力発電ケーススタディの全体的な環境パフォーマンスを観察するため、各影響カテゴリーは、CMLデータベースから得た欧州の基準値を基準として正規化した。正規化した結果の平均を図2に示す。この結果から、マイクロ水力発電の設置規模が大きいほど環境負荷が相対的に小さくなることが示唆された。

図2. 北ウェールズにおけるマイクロ発電設備の正規化された環境影響

結びに

本LCAの結果は、コンクリートや骨材、金属、プラスチックなどの製造が、マイクロ水力発電設備の建設における環境負荷の具体化に寄与していることを示した。そのため、マイクロ水力発電設備の建設における材料需要の変化は、プロジェクト全体の負荷に大きな影響を与える可能性がある。このことは、ある低水準の設備で顕著であり、その設備では大量の材料が必要とされ、地球温暖化係数、酸性化係数、化石資源枯渇係数の負担が最も大きいスキームとなった。建設に代替材料を使用すれば、マイクロ水力発電建設の際に必要なエネルギーの環境影響を削減できる可能性も示唆された。例えば、コンクリート製の発電所構造を木造構造に置き換えることで、地球温暖化係数負荷を顕著に削減できる。あるマイクロ水力発電設備では、電気を輸出するために3kmのグリッド接続アップグレードが必要であったため、人体毒性係数と生物資源枯渇係数の負担が比較的大きかった。この知見は、計画段階で発電機を戦略的に配置することで、マイクロ水力発電設備の建設に伴う全体的な環境影響を低減できることを示唆している。本研究で得られたLCAの結果は、同規模のマイクロ水力発電プロジェクトの建設に伴う具体化負荷の結果に明確な違いがあることを示している。このことは、再生可能エネルギープロジェクトについて、独立したLCAケーススタディを実施する必要性を補強するものである。このような研究は、材料の選択と設計特性に関して、設計と建設の改善機会を知らせることができ、サーキュラーエコノミーの原則に沿って、これらの設備の環境性能を向上させる可能性がある。

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