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「ライフサイクルアセスメント事業」

消骨テクノロジーにおけるカーボンフットプリント評価

消骨テクノロジーに基づく無縁遺骨処理プロセスから生じるライフサイクル環境影響に関して、環境影響評価ツールライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)を用いて、環境影響評価指標として広く採用されている温室効果ガス(Greenhouse Gases: GHGs)排出量という環境影響カテゴリー因子に焦点を当てる「カーボンフットプリント」により評価を行った。

LCAステップ1: 目的および調査範囲の設定

消骨テクノロジー((株)Dソリューションズ開発)による最終遺骨処理の比較対象として、産業廃棄物処理と散骨処理を取り上げ、次の3通りのシナリオを想定して、LCA評価(ISO14040:2006/ISO14044:2006ガイドライン準拠)を行った。

  • シナリオ1【消骨処理】:無縁遺骨を消骨処理施設に輸送し、消骨テクノロジーで処理されるプロセス評価範囲内で発生する総GHG排出量およびカーボンフットプリントを算出。消骨プロセスの燃料である竹材の伐採・輸送プロセスもLCA評価範囲内に含める。
  • シナリオ2【産廃処理】:無縁遺骨を産業廃棄物処理施設に輸送し、化石燃料ベースの焼却方法で処理されるプロセス評価範囲内で発生する総GHG排出量およびカーボンフットプリントを算出。
  • シナリオ3【散骨処理】:無縁遺骨を粉骨処理施設に輸送し、粉骨後の遺灰はさらに散骨処理地である外洋に船舶で旅客と共に運搬され、海洋散骨されるというシナリオの評価範囲内で発生する総GHG排出量およびカーボンフットプリントを算出。

図1. LCA評価対象プロセスとシステム境界(評価範囲図)

なお、各シナリオでのプロセス処理に要する資本財(廃棄物処理施設、建物、車両、産業機械など)についての環境負荷評価は、通常、カーボンフットプリント調査では除外されることが多いことから対象外としている。

LCAステップ2: ライフサイクルインベントリ(LCI)分析

表1に、各シナリオにおけるプロセス単位毎のライフサイクルインベントリ表を示す。これらの数値は、LCAステップ3(ライフサイクル環境影響評価)において(GHG排出原単位の算出根拠となる)投入資材・エネルギー等の値およびGHG排出係数として使用される。

表1. 各遺骨処理インベントリ表(LCAで考慮した主な項目とプロセス)

項目 プロセスまたは投入資源 量/FU GHG排出係数
シナリオ1:
消骨
消骨プロセス投入燃料:
竹廃棄物(50%含水率)
20kg -0.52 kg CO2eq./kg*1
輸送−火葬済みの無縁遺骨
(燃料使用量=0.741 L/tkm*2
軽貨物車、運搬距離100km)
0.0024t*100km
=0.24tkm
2.322 kg CO2eq./L*2
竹廃棄処理:竹伐採
(チェンソーガソリン使用)
0.224 L*(20/41.7)
=0.107 L*3
2.322 kg CO2eq./L*2
輸送−伐採済み竹
(燃料使用量=0.0844 L/t*2
5t貨物車、運搬距離100km)
0.02t*100km
=2tkm
2.585 kg CO2eq./L*2
シナリオ2:
産廃処理
産廃(燃え殻*4)焼却処理プロセス
電気使用量
0.434 kWh*5 0.433 kg CO2eq./kWh*7
産廃(燃え殻*4)焼却処理プロセス
燃料使用量 (ガソリン使用)
0.655L*6 2.322 kg CO2eq./L*2
輸送−火葬済みの無縁遺骨
(燃料使用量=0.0844 L/t*2
5t貨物車、運搬距離100km)
0.0024t*100km
=0.24tkm
2.322 kg CO2eq./L*2
シナリオ3:
粉骨・散骨処理
遺骨1体あたりの粉骨処理プロセス
電気使用量
1 kWh*1 0.433 kg CO2eq./kWh*7
輸送−火葬済みの無縁遺骨
(燃料使用量=0.0844 L/t*2
5t貨物車、運搬距離100km)
0.0024t*100km
=0.24tkm
2.322 kg CO2eq./L*2
輸送−旅客「人km」当たりの散骨地
(海域)までの船舶輸送
(運搬距離2km *9、旅客4人)
8人km 0.113 kg CO2eq./人km*10

出典
*1. 竹をエネルギー源として使用した際の排出係数は、デルフト工科大とSustainability Impact Metricsが提供する「Idemat2022データベース 」にある数値を使用した。
*2. 環境省 排出原単位公開データベースにある数値を使用。
*3. 竹伐採時のチェンソー燃料使用量は、参考文献[##] で報告されている数値を基に、本LCA調査の機能単位に見合った数値から燃料使用量を計算し、その数値を使用。実際は2サイクル 混合ガソリンだが、LCI関連データを見出すことができなかったので、環境省公開データのガソリン排出係数を使用。
*4. 全国の廃棄物担当部局に対し環境省から、ペット葬祭事業より火葬された焼骨で埋葬も供養もされない残骨は産業廃棄物の「燃え殻」と指定しても技術的に差し支えないという通知を基に、本LCA調査内でも火葬後の遺骨を「燃え殻」として調査を行った。環境省からの詳しい通知内容は、こちらに記載。
*5. 宮城県環境生活部による県内産業廃棄処理調査報告書から、「燃え殻焼却処理」の電気使用量データを使用。
*6. 宮城県環境生活部による県内産業廃棄処理調査報告書から、「燃え殻焼却処理」の燃料使用量データを使用。使用された燃料はガソリンを考慮。
*7. 環境省 排出原単位公開データベースにある電気事業者別排出係数の中から、一般送配電気事業者の一つ、九州電力送配電株式会社の電気使用量に対する排出係数を使用。
*8. 粉骨処理の際の電気使用量は、参考文献[##]で報告されている数値を使用。
*9. 日本海洋散骨協会が制定するガイドラインに、海洋散骨場所は陸地から2km沖ということから、本LCA調査ではプレジャーボートを使用し散骨者(運転者含む)4人が海洋散骨場所まで運搬される際のGHG排出量を考慮。日本海洋散骨協会が制定するガイドラインは右記に記載。https://kaiyousou.or.jp/guideline.html
*10. プレジャーボート使用時の日本国内LCI関連データを見出すことができなかったので、UK DEFRA(英国 環境・食料・農村地域省)GHG排出係数公開データベース内にある排出係数を使用。

LCAステップ3: ライフサイクル環境影響評価(GHG排出量算出結果)

ライフサイクルインベントリ表(表1)をもとに、各遺骨処理シナリオのGHG排出量を積み上げ法を用いて算出した結果を(表2、図2)に示す。主な評価結果は次のとおりである。

  • シナリオ1【消骨処理】: 遺骨輸送、竹の伐採・輸送によってGHGは排出されるが、バイオマスエネルギー源である竹材自身の生物学的炭素隔離処理のGHG排出量が負の値となることから、総合GHG排出量は、負の値(-7.32 kg CO2eq./FU)となる。
  • シナリオ2【産廃処理】: 遺骨を「燃え殻」として焼却処理するシナリオを想定していることから、電気・燃料由来のGHG排出量(45%)と輸送によるGHG排出量(55%)であり、総GHG排出量は0.75 kg CO2eq./FUと比較的低い値となったが、竹材由来のカーボンクレジットが産出された消骨処理に比べると、本シナリオでは環境に負荷がかかる結果となった。
  • シナリオ3【散骨処理】: 総合GHG排出量は1.75 kg CO2 eq./FUと最も排出量が多い結果となった。このシナリオでは、散骨者を散骨海域まで輸送する際に使用される化石燃料由来の割合が特に大きい(総GHG排出量の52%)。

表2. 各遺骨処理シナリオにかかるGHG排出量[kg CO2eq./FU]

項目 シナリオ1:
消骨
シナリオ2:
産廃処理
シナリオ3:
粉骨・散骨処理
処理プロセス -8.20 0.34 0.43
輸送(貨物) 0.63 0.41 0.41
輸送(旅客) --- --- 0.90
その他 0.25 --- ---
総 GHG 排出量 -7.32 0.75 1.74

図2. 遺骨処理一体(FU)にかかる GHG 排出量 [kg CO2 eq./FU]
(正の値は大気への GHG 排出、負の値は「竹による」大気からの生物学的炭素隔離を示す。)

LCAステップ4: 解釈

産廃処理は、散骨処理に比べGHG排出量が低い値となったが、焼却プロセス自体に化石燃料を使用することもあり、本調査では機能単位が小さいため(一体の遺骨を約2.4 kg想定)、総GHG排出量は低い値になっているが、年間約32,000人に及ぶ行旅死亡人の遺骨処理に換算すると、産廃処理で排出されるGHG量は年間24,000 kg CO2eq.程度であり、これはアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)のGHG等価計算量によると、東京ドーム約3個分の森林が年間に二酸化炭素を吸収(生物学的炭素隔離)する量に匹敵する値となる。

本LCA調査結果でも述べたように、従来の無縁遺骨処分に比べ、消骨テクノロジーはバイオマス再生可能エネルギーを使用し、しかもプロセス内でのGHG排出もありませんので、脱炭素型社会またはカーボンニュートラル実現に向けて、重要な役割を担う可能性を秘めています。

結びに

今回のLCA調査は、GHG排出量・カーボンフットプリント のみにLCA指標に焦点をあてましたが、過去の文献には、従来の遺骨・遺灰処理の方法による環境影響について他のLCA指標でも調査されています。例えばオランダ応用科学研究機構が行った葬儀のLCA調査内容ではFreshwater eutrophication (淡水の富栄養化) またはMarine eutrophication(海洋富栄養化) というLCA指標にも焦点をあて、海洋散骨による水域汚染についてLCA調査しています。これは、火葬後の遺骨・遺灰の主成分はリン(オランダ応用科学研究機構によれば約97%)ということもあり、海洋散骨によって放出された遺骨・遺灰は、リンなどの過剰な栄養素が水域に蓄積されておこる富栄養化(プランクトンの増殖により水域の低酸素症原因となる)を引き起こし、海洋生態系のバランスを崩し、魚類や藻類が死滅して水環境の悪化に繋がります。化石燃料をベースとした産業廃棄物焼却処理方法も今後の脱炭素化に向け大きな課題になっていきます。

脱炭素化に関心が集まり、自治体や企業のカーボンニュートラル実現に向けてのマネジメントも更に重要視されるようになってきました。今回、消骨テクノロジー及び従来の無縁遺骨処分に生じるGHG排出量(カーボンフットプリント指標 )をLCAツール法で比較し、消骨テクノロジーのカーボンフットプリントが最も低く、カーボンニュートラル実現に向けて大きな可能性があることを示しました。さらに、消骨テクノロジーの推進は多くのSDGsの目標への貢献にも繋がるものと考えています。

図3. 消骨SDGsパフォーマンス

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