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「ライフサイクルアセスメント(LCA)事業」

EUにおける風力発電ブレード廃棄物のLCA評価

この研究は、SEEDs組合がドイツ・アーヘン工科大学在職中、環境影響評価ツールライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)を採用し、地球温暖化係数(GWP)という環境影響カテゴリー因子に焦点を当て、EU全土における各風力発電ブレード廃棄プロセスに伴う温室効果ガス(GHG)排出量を定量化し「カーボンフットプリント」評価を行った。

LCAステップ1: 目的および調査範囲の設定

この研究では、現在多くの風力発電ブレードに使用されている炭素繊維複合材料(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)ガラス繊維複合材料(GFRP: Glass Fiber Reinforced Plastics)に焦点をあて、それぞれの主材料となる炭素繊維(CF: Carbon Fiber)、ガラス繊維(GF: Glass Fiber)、エポキシ樹脂(Epoxy resin)の廃棄物処理プロセス(技術成熟度レベル:Technology readiness levels-4以上)に関連するプロセスGHG排出量を定量化した。LCA は、ISO14040:2006 / ISO14044:2006に従って実施。この研究で選択した機能単位は、処理された風力発電ブレード廃棄物(GFRP または CFRP)1tである。このLCA研究の範囲に関しては、以下の2つのシナリオを考慮した:

  1. リバースロジスティクス(RL)*1範囲は、本研究で考慮したEoL(End of Life)*2経路に関連する排出量を計算することを目的とする(図1参照)
  2. フォワードサプライチェーン*3では、新規のGF、CF、エポキシ樹脂の入手と生産に起因するGHG排出量のうち、リサイクル材や回収材の使用によって回避できるGHG排出量を計算することを目的としている(図2参照)。一次GFRPとCFRPの製造と使用段階は、すべての廃棄物管理経路で同じであるため、これらの段階はシステム境界には含まれない。

図1. GFRPおよびCFRP風力発電ブレード廃棄物のRLに関するLCAシステム境界とプロセスマップ

図2.炭素繊維・ガラス繊維・エポキシ樹脂製造のLCAシステム境界とプロセスマップ

なお、GFRPとCFRPの一次製造段階と使用段階は、全ての廃棄物管理パスウェイで同一であるため、これらの段階はシステム境界には含まれない。資本財(廃棄物処理施設や産業機械など)に関連する環境影響も、インベントリデータに関わる課題や不確実性があるため、本研究から除外。風力発電のオペレーション・メンテナンス段階に関する排出量も機能単位当たりに配分される排出量は、大きくないため除外されている。

*1. 製品の回収、 返品、リサイクル、廃棄物処理、製品再生、修理など顧客から、製造者へと逆流した物流管理を指す。
*2. End-of-Life(Eol)とは、製品のライフサイクルの最後の段を指す。
*3. 通常、サプライチェーンと呼ばれ、生産から消費までの流れを指す

LCAステップ2: ライフサイクルインベントリ(LCI)分析

風力発電ブレードの廃棄物プロセスに関する一次データは、関連文献から収集。また、インベントリデータには、Ecoinventデータベースや、オープンソースソフトウェアOpenLCAを介してアクセスしたELCD(European Reference Life Cycle Database)などの二次データソースを使用。最終的に一次データおよび二次データに基づいて、openLCAでモデル化した。

LCAステップ3: ライフサイクル環境影響評価

本研究の環境影響指標として、100年という時間枠における二酸化炭素換算量(kg CO2eq.)排出の潜在的影響を評価する「IPCC 2013 GWP 100a」を用いて実施。

LCAステップ4: 解釈

各GFRPおよびCFRP廃棄物のEoL経路に関連する原材料代替またはエネルギー回収オプションから得られるエコクレジット(リサイクルによって上流工程でのGHG排出量を相殺することによって得られるリサイクルベネフィットを指す)を含む正味GWP値(kg CO2eq./-トン風力発電ブレード廃棄物)を、それぞれ図3および図4に示す。

図3. GFRP風力発電ブレード廃棄物の各EoL処理経路の正味GWP値(kg CO2eq./t GFRP waste)

図4. CFRP風力発電ブレード廃棄物の各EoL処理経路の正味GWP値(kg CO2eq./t CFRP waste)

図3からわかるように、本研究のLCA結果は、GFRP廃棄物のEoL処理オプションとして、"milling recycling technique" (物理的再生法)が最も環境的に最適なオプションであることを示唆している。この知見は、過去に実施された先行研究とも一致しており他の学術論文でも物理的再生処理が、これまでのGFRP廃棄物の最適なEoLソリューションとして選択されている。また、現在の高度なリサイクル技術を受けながらも、GFRPの深刻な繊維損傷の可能性があり、その結果GFの強度が低下するため、GFRPの最も好ましいEoLソリューションは物理的再生法であると過去の学術論文で報告されている。またGFRPの焼却プロセスが、最終処理の排出量よりも若干高いエコクレジットに寄与していることを示唆しており、その結果、プラスの環境ベネフィットをもたらしている。本LCAの結果では、セメントクリンカーでのGFRPの共処理が比較的小さなエコクレジットしか生み出さないことを示しているが、ユニバーシティ・カレッジ・コークの学術論文では、このEoL処理経路が、将来、より多くのGFRP風力発電ブレード廃棄物が発生するにつれて、環境的に最適なEoLオプションになる可能性があることを強調している。

CFRPのEoL処理工程に関連する正味GWP値に関して、図4に見られるように、Fluidized bed technique(流動床技術)が最もGWP負荷が少ないことを示唆しており、CFRP廃棄物のリサイクルに最適な環境オプションである結果となった。これは、過去の学術論文でも同じ結果が報告されている。 しかし、化学再生法は、熱エネルギーに頼らないため、更なるGWP負荷の低減が期待され、現在の実験室規模(TRL=4)のレベルが商業的な準備レベルにまで向上すれば、最適なCFRPリサイクルオプションになり得ることも強調している。本研究や他の学術論文で考察されているように、有害性の低い超臨界水溶媒を用いたソルボリシス処理法は、従来の酸を用いたソルボリシス法よりも環境的に優れた代替法を提供することができる。

更に、図4に示すように、二次市場(本事例では繊維産業)におけるリサイクルカーボン繊維(rCF)の利用により、明らかに高いエコクレジットが観察された。先進技術によるEoLリサイクルプロセスは、焼却や埋め立てよりもエネルギー需要が高いため、GWP負荷が高くなる可能性があるが、rCFによる未加工カーボン繊維(vCF)の代替を考慮すると、かなりのGWP負荷を相殺することができる。これは、カーボン繊維の製造工程が非常に高いエネルギー量を必要とし、その結果、かなりのGWP負荷が生じる。したがって、CFRP風力発電ブレードのカーボン繊維リサイクルおよびEoL回収オプションは、ガラス繊維やエポキシ樹脂のリサイクルよりも更なる環境利益に貢献する可能性を秘めている。

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